人工透析とバスキュラーアクセス
腎臓が血液を浄化しきれなくなってきた時に、必要になるのが透析療法です。腎臓病を根本的に治すための治療ではなく、症状の進行を防ぐためのものですが、尿毒症の症状や日常生活における全身状態などを総合的に判断してから治療の開始となります。透析は一生続けていく治療ですので、しっかり知識を持って行うことが重要になってきます。
透析には2種類ありますが、ほとんどの患者さまが受けているのが血液透析です。血液透析では、血液を体外に取り出し、たまった余分な水分や老廃物を透析機で取り除いて、電解質を正常なバランスに整え、pH値を調整してから戻します。血液を取り出すためには、バスキュラーアクセスという血液の取り出し口が必要になります。多くの患者さまはシャントという取り出し口を手首付近に作ります。
バスキュラーアクセスの役割
透析治療では、1分間に200cc程度の血液を取り出すと最も効率よく行えます。1回4~5時間もかかる治療ですので、効率が良ければそれだけ患者さまにとって時間や身体への負担が軽くなるため、これは重要なことです。ただし透析治療は週に数回受けるものですから、そのままでは動脈に何度も太い針を刺すことになり危険ですし、静脈では十分な血流が得られません。そこで、動脈と静脈の間にバイパスを作って動脈の豊富な血流の一部を静脈に流れるようにして、それを透析治療用に使うのがシャント法です。シャントは近道という意味を持っています。シャントは使っていくうちに狭窄や閉塞を起こしますので、その場合にはシャントPTAというパルーン拡張の手法を使った手術で改善します。
バスキュラーアクセスの種類
ご自身の血管を使うシャントが一般的ですが、手首付近の血管では難しい場合には肘周辺の血管を使うこともよくあります。また、内シャント法や動脈の表在化も不可能な場合には、人工血管を使ったシャント手術も行われています。人工血管の場合、感染の危険性など合併症が起こる可能性がやや高いので、定期的に外来の診療を受けながらしっかり管理していく必要があります。
他に、心不全のある方に動脈表在科手術(SFSA)を行うことや、高齢者などに長期留置カテーテル法(PVC)を行う場合もあります。
シャント手術について
通常はご自身の血管を使った内シャントの手術を行います。人工血管を使った外シャントの場合、一般的には手術後2週間ほどしないと透析治療を受けられませんが、当院では手術後すぐに透析治療を受けられる人工血管もご用意しています。
外シャントは主に手首の血管が細くてシャントに十分な血液が流れない場合に選択され、手首近くの血管が細くても、肘付近にある血管は十分な太さがあるため、そこを人工血管でつなぎます。静脈だけが細い場合は、肘付近の静脈と手首近くの動脈に人工血管をつなぎ、静脈と動脈のどちらの血管も狭い場合には、人工血管を手首付近でカーブさせてから肘近くの両方の血管につなぎます。
内シャントと外シャント、そしてシャントを使っていくうちにできた狭窄や閉塞を改善するシャントPTAなどの治療を、当院では日帰りで受けられます。
従来ですと「透析治療のためだから」と手首にできる手術の傷についてあまり配慮がされていませんでしたが、当院ではシャント手術における皮膚縫合にも配慮し、できるだけ目立たないよう心がけています。
シャントのメンテナンス
シャントは狭窄や閉塞を起こすものであり、早期に見つけて改善することでそのシャントを長く使い続けることができます。現在はシャントPTAという狭窄や閉塞を改善する手術がありますので、定期的に受診して検査を受け、大事にお使いになれば頻繁にシャントを作り直さなければならないようなことはほとんどありません。
シャントがどのくらいの頻度で狭窄を起こすかは患者さまにとって大きく違いますし、体調や日常生活の変化によって変わることがあります。当院ではシャント手術を受けた方に、定期的なエコー検査を行って血流量やRI値などを測定しシャントPTAを行う時期を検討することをおすすめしています。シャントPTAは局所麻酔で受けられる日帰り手術ですから、定期的な検査で狭窄が見つかったらそのまますぐに受けて、再度エコー検査で改善状態を確認したら数時間後にはご帰宅できます。
血液透析に関して
血液透析では、自宅に透析機械を設置して透析療法を行う在宅血液透析も保険適用となりましたが、まだ導入している患者さまはごく少数であり、血液透析は主に透析施設で受ける治療となっています。1回の治療時間は4~5時間、毎週数度の通院治療が必要になってきます。最近は夜間、眠っている間に血液透析を受けられる施設なども出てきているため、しっかり情報を集めてライフスタイルに合わせた選択をおすすめしています。